第4回ワークショップでは、社会を変えることに実践的に取り組んでいるリタリコ株式会社の榎本氏に講話いただいた後、後半の時間には秋田のビジョン共創に向けてグループワークを行いました。
ゲスト講師:
榎本大貴氏 (LITALICO株式会社・LITALICO研究所チーフリサーチャー)
「どうやって社会を変えていくのか~How to Change Society a Better Place?~」
1. 「どうやって社会を変えていくのか~How to Change Society a Better Place?~」
ビジョン共創フェーズでは秋田の未来像を描き、「こうなったらいいな」という思いを形にしていきます。「ありたい姿」「こうしたい」という願いを実現するためには、社会に対してどのように働きかけることができるのかを考えることも必要となります。社会の見方、社会に対するアプローチの方法について学ぶため、LITALICO株式会社(以下リタリコ)の榎本氏から、社会を変えるための実践的な取り組みについてお話いただきました。
リタリコは「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ、「障害」があると診断された方々に対し就労支援、幼児教室・学習塾などの教育サービスを提供している会社である。まず障害とはそもそも何か、障害はどこにあるのか。人は誰しも生まれ持った特性と、成長しながら身につけていくスキルを持っている。特性とは基本的には変わらないものであるため、その特性が社会の環境と合わないと生きづらいという状況が生まれる。つまり障害とは個人が持っているものではなく、社会と個人の間の相互作用にあるものだ。リタリコの「障害のない社会をつくる」というビジョンは、障害は人の側にあるのではなく、個人の特性を「障害」と捉える社会の側にあるのであり、そういった社会にある障害をなくしていくことが必要だという視点にたっている。
自分は入社後に発達障害と診断された子どものセラピストとして活動し、教材やサービス開発に携わった後、現在はリタリコの研究所で調査研究に従事している。「社会の変え方」というテーマに正解はないが、リタリコに入社して8年、取り組みを通じて自分なりに考えた3つのポイント①現場から課題を見つける、②どうしたらできる?と問う、③あらゆる手段を考え行動する、について話す。
一つ目は「現場から課題を見つける」。リタリコでは最初は企業向けのコンサルティングを行っていた。しかし実際にコンサルティングを通じて現場に入ると、課題は障害のある方本人のスキルと企業側のニーズの不一致にあることがわかった。そうした課題が現場にいることで浮き彫りになったことで、企業向けのコンサルティングから、当事者向け支援事業へと事業転換をすることができた。現場は課題発見の最先端である。
二つ目は「どうしたらできる?と問う」。何か変化を起こそうと行動する際、それがどんなことであっても資金がない、前例がないなど、できない理由はいくらでも上げられる。そこから脱して「どうしたらできるか」とまず自分に問い、つぶやいてみる。そして人に話してみる。言葉にしてみることが鍵であり、その際にビジョンに立ち返り「何ができるか」と問いを転換すること。ビジョンに共感してくれる人がいることは原動力となり、また、ビジョンを妄想する力というのは社会を前進させる。問いを立てることとビジョンを持つことのセットがあることが大事である。
最後は「あらゆる手段を考え、行動する」。ビジョンに向かう戦略を描いたら、具体的な手段を網羅的に考えることが大切である。上司はよく「可能性を全て洗い出したのか」と聞いてきた。あらゆるプランを考え、可能性を出し切ることが求められた。また、自分たちが実現したいビジョンに向かったプランだけを考えるのではではなく、異なる立場の多様なステークホルダーの利害関係も把握しながら、相手が動く論理を理解することも重要である。そのためにはチーム内の多様性を活かし、違いを力に変えていくことが求められる。
2. 秋田の未来を描くワークショップ
ワークショップ後半では、前回のワークショップで書き出した「2050年のありたい未来像」を元に、キーワードを抽出し、5つのテーマ(こうあってほしい、という願いの方向性)が出され、それぞれ関心のあるテーマでグループをつくりディスカッションを行いました。
5つのテーマ(こうあってほしい、という願いの方向性):
① 世界や人とのつながり、物理的制約からの解放
② 健康で元気な高齢社会
③ 暮らしの多様化:育児、働き方の変化
④ 産業や暮らしの中の不便の解消
⑤ 文化・自然を次世代に
グループディスカッションの最初は現状認識をすることから始めました。それぞれのグループのテーマ(願いの方向性)について、現状では秋田はどうなのか、どんなことに困っている、または残したいのかについて話し合いました。
現状認識について話し合った後は、目指す姿を具体化するためのディスカッションに取り組みました。2050年までに目指したい秋田の状態は?その状態の実現のために必要な行動や取り組みは具体的にどのようなことが考えられるか、アイデアを出し合いました。
最後は各グループが話し合ったこと、出てきたアイデアについて発表しました。
物理的的制約からの解放を実現するためのアイデアとしてはVR(バーチャルリアリティー)技術の活用という提案がされました。元気な高齢社会の実現のテーマについて話し合ったグループからは、朝市のような場づくりを展開し、起業を通じた世代間の知の継承を促すことが提案されました。暮らしの多様化グループからは、失敗しても大丈夫、と個人が思える社会にしていくこと、選択肢が豊富であることがビジョンの実現に不可欠と発表されました。また、不便解消をテーマに話し合ったグループからは、秋田の暮らしはよく考えると不便ではなく、産業も豊富で、寧ろ今ある秋田の秋田らしさを大切にすること、いいとこ探しをしていくことが必要ではないかと提案されました。最後に文化、自然を次世代に、のグループからは、秋田の伝統産業の一つである日本酒について、より若い世代が日本酒に親近感を感じる販売環境や仕組みづくりがあると良いのではないかという提案がされました。
3. 次回に向けて
いよいよビジョン共創ワークショップも残り2回となりました。今回のワークショップで出された5つのグループのアイデア、提案を元に、次回は秋田のビジョンの策定と成果指標の設計に取り組みます。多くの人に伝わるビジョンとするためにはどのような表現を使うと良いのか、また、ビジョンを実現するための具体的な方法としてどういった取り組みが想定されるのか。グループディスカッションを継続しながらビジョンの策定に向けて議論を深めていきます。