第5回ワークショップでは前回までに描いてきた秋田の未来を考えるための「5つの願いの方向性」をもとに、ビジョンを具体的な言葉で表現し文章化することに取り組みました。ワークショップ前半にはゲスト講師にデロイトトーマツコンサルティング合同会社の真鍋氏と阿部氏を迎え、5つの願いの方向性とテクノロジーの関連についてパネルディスカッションを行いました。ワークショップ後半の時間には参加者がグループを組み、ビジョンの策定に取り組むワークを行いました。
ゲスト講師:
真鍋裕之氏 (デロイトトーマツコンサルティング合同会社・執行役員)
阿部貴裕氏 (デロイトトーマツコンサルティング合同会社・シニアマネージャー)
1. パネルディスカッション「未来をつくる先端技術とその事例」
パネルディスカッションのはじめに二人のゲストからそれぞれの専門分野についてご紹介いただきました。真鍋氏は通信関連技術を用いた事業開発のコンサルティングを行っており、例えば5G技術を地方固有の社会課題解決に如何に適用していくかといったテーマや、ローカル5Gといった考え方を紹介いただきました。
阿部氏はAI関連事業を専門としており、「AIの民主化」の例として、オンラインの無料ツールを起動しパソコンのカメラの前でペットボトルを動かし、それをAIが画像認識することで学習していく様子を見せてくれました。
地方が抱える社会課題の解決やまちづくりに、どのように5GとAI技術が使えるのか、多くの事例を交えてお話いただきました。
モデレーターが「5つの願いの方向性」についてゲストに共有し、それぞれの願いの方向性に対して5GとAIがどのように活用される可能性があるか、質問しました。
「5つの願いの方向性」
① 世界や人とのつながり、物理的制約からの解放
② 健康で元気な高齢社会
③ 暮らしの多様化・育児、働き方の変化
④ 暮らしや産業の不便の解消
⑤ 文化、自然環境を次世代へ
秋田にいながら世界や人とつながる、という願いについて、5Gが導入されれば、バーチャルリアリティーを使った観光体験の提供といったサービスは格段に広まると思います。しかしそれができて嬉しい体験とはどのようなことか。「つながり」とは観光で得られるものではなく、コミュニティの一体となる体験を通じて得られるもののように思います。5Gを導入すればつながりが増える、というよりは、「その場にいることが価値」であることを踏まえて、テクノロジーをそこにどう活かすかを考えることが大事だと思います。(真鍋氏)
地方の労働力やサービスの不足といった問題に対し、人間の代わりとしてAIを使おうとする試みが数多くあります。そこで一つ考えなければいけないことはユーザーにおける「テクノロジー格差」の懸念です。特にサービスを必要とする高齢者の方はテクノロジーへのアクセスがそもそもないことが多いです。格差を縮めるためにも、AIといった一見難しそうな技術もできるだけ簡単にする、といった工夫をしていくことが大切だと思います。また、例えば町医者不足をAIで補うということは技術的に可能であっても、特に日本のような国は社会制度の方がなかなか変化しません。さらに、暮らしや働き方の多様化という文脈では、AIの導入が進めば作業効率が上がり、働き方改革が進むと言われていますが、人がAIに置き換えられることは孤立化が進む、という側面もあることを視野に入れて設計する必要があるように思います。(阿部氏)
パネルディスカッションの最後には質疑応答の時間が設けられ、参加者から「自動運転技術の実現可能性は?」「IT分野以外の技術の進歩はどう見ているか?」「技術革新によって人の労働機会が奪われることはどのように考えるか?」等の質問がされました。
自動運転技術に関する質問への回答の中で、「動作判断の80%はAI単体で可能、残り20%を人間が確認する。100%技術に頼るのは現実的ではありません。AIも間違えることがあるということ、念頭に考えなければいけません。」と阿部氏よりお話がありました。
5GについてもAIについても、技術がカバーできること、人間にしかできないことを把握することがテクノロジーと付き合う鍵であり、そのためにあらゆる事象や実現したい絵の細分化をすることが重要であること、質疑応答のやり取りの中で強調されました。
パネルディスカッションの最後には、技術の活用可能性を検討することと同時に、人間がどうありたいのかを常に思考し、将来実現したいビジョンとセットでテクノロジーの導入を検討することが大事であること、テクノロジーはあくまでビジョン実現のためのツールであることがお二人のお話から一貫して伺えたとモデレーターが振り返り、パネルディスカッションを終えました。
2. ビジョンを具体的な言葉で表現するワークショップ
ワークショップ後半は、ビジョン策定に向けて「5つの願いの方向性」をもとに、ビジョンを具体的な文章に落とし込むワークを行いました。グループワークに入る前、ファシリテーターから一枚のスライドが見せられました。2つの形のどちらが「ブーハ」でどちらが「キキ」だと思うか、という質問が出され、尖った形がキキで丸みを帯びている方がブーハ、と答える人が多数でしたが、逆の回答をした人もいました。このアクティビティを通して、一人一人が持っている世界観が異なること、また、異なる世界観をもった者同士、それを持ち寄りビジョンを共創するためには異なる世界観を持っている者同士であることを認め、「共話」する必要があることが伝えられました。「共話」を体験するアクティビティを行い、ビジョンを全員で言葉にしていく作業の準備を行いました。
「共話」ワークの後は、「5つの願いの方向性」の文章を読み込み、大切だと思う文章や言葉にハイライトを入れること、足りないと思う要素を書き足しグループ内で共有することを行いました。また、配られた付箋に、必ずビジョンとして入れたい言葉を書き出し、それを全体で共有しました。
「この言葉は絶対にビジョンに入れたい」「こっちの表現の方が多様な世代に受け入れられやすいんじゃないか」「その言葉の選び方、斬新ですね!私にはない発想です。」それぞれなぜその言葉を付箋に書いたのか、互いに考えや想いを共有しました。
貼り出された付箋を全体で振り返り、どんな言葉が多く出てきているか、またはユニークな言葉があるか、確認しました。例えば高齢社会デザインに向けたビジョンのところでは、「発酵した知の共有」といった箇所を書き出している付箋が多く、高齢社会を問題視するだけでなく、異なる世代が互いに活かし支え合う未来像を構想していることが伺えました。大学生や企業経営者、秋田出身者や他県出身者と、ワークショップ参加者は異なる世界観をもつ個人の集合であるものの、これまでのワークショップを通じ、参加者それぞれが秋田の未来像として描いているものの間に、共通する想いが幾つもできていることが見えてきました。
3. ビジョン策定に向けて
秋田の未来がどんな姿であってほしいかを考え、「こうあってほしい」と参加者が思ったことを分類した「5つの願いの方向性」をもとに、今回のワークショップでは具体的な文章をつくる作業を全員で共同して行いました。ビジョン共創フェーズの最後には、今回のワークショップで出てきた「大切にしたい言葉やフレーズ」を用いて、持続可能な秋田のビジョンを策定し、次のインキュベーションフェーズで取り組むテーマを設計します。